コーラスのハモリとピアノのハーモニーってちょっとずれてるって話
ご自身でコーラスやってたりお子さんがコーラスをやってたりで、ピアノに合わせてコーラスを歌うのってよくあると思うんですが、そこで、ちょっと気になることってありませんか?
例えば、コーラスのハーモニーは綺麗に聞こえるのに、何となくピアノと合ってないようなとか、伴奏は綺麗なのに、コーラスが合ってないようなみたいな事です。
そう、それって普通にピアノの伴奏でコーラスをすると、そうなってしまいがちなんですよね。
耳が良い人ほどそれが分かると思いますし、コーラスを歌っている人達の耳が良いほど、それが現れやすいんです。
で、これって何が原因かと言うと、純正律と平均律って聞いたことありませんか?
なんじゃそれ?って方のために軽く説明しますと、純正律ってのは、物理的に考えて、自然に発生した音律で、平均律は音楽をやりやすくするために純正律にちょっと手を加えて音律です。
純正律、平均律の他にもピタゴラス音律、キルンベルガー音律、中全音律、ヴェルクマイスター音律など色々と音律があるのです。
音律は音階とは違うので、どれもドレミファソラシドなのですが、それぞれの音の幅が若干違います。
で、我々が一般的にドレミファソラシドって平均律と言って、ドからドとかのオクターブを12分割に均等に割って作られたドレミファソラシドなんですね。
12分割ってのは、ドレミファソラシドって7つしか無いですけど、ピアノとかの鍵盤を見ると黒いのがありますよね?
1オクターブの中には黒鍵は5つあるんです。
なので、ドレミファソラシドの7つの白鍵と、5つの黒鍵を合わせて12個の音が1オクターブ内にあるって訳です。
で、このオクターブを12分割する求め方でドレミファソラシドを作ると、どうなるかって言うと、ハーモニーが崩れるんですよ。
どういうことかと言うと、昔は音を振動数で測るとか出来なかったし、そもそも楽器が無かったので、とりあえずは声で一緒に歌ってた訳ですよ。
んで、最初は同じ音を歌うユニゾン、次に男女で歌うと自然に出来るオクターブ、そこから、少しずらすと綺麗なのが出てくるぞと分かったのが5度のハーモニーです。
そこから更に3度のハーモニーが生まれ、1度(ルート、根音)、3度、5度の和声が生まれます。
そして、この3つの音というのは、キリスト教の教義である三位一体と一致していて、音楽は神との対話だとしていた昔の人はこの3和音(トライアドといいます)を非常に大切にしていたそうです。
その後で、ピタゴラスという人が、鍛冶屋のハンマーの音から響きには気持ちいい響きとそうでないのがあるかも知れないと気が付き、1弦のみの楽器を2台作り、弦の長さを調整して、どんな時に音がうねるのか?とうのを研究しました。
その結果、弦の長さの整数倍の時、綺麗な響きが得られると分かります。
同じ長さだとユニゾン、2倍だとオクターブ、そして3分の1だと5度の和音が出てくる訳です。
そして、この5度の響きを使って、12回繰り返し、12音を作ったのです。
それがピタゴラス音律と呼ばれるドレミファソラシド(及びその他の黒鍵の音)です。
ですが、ピタゴラス音律だと、5度の響きはとても綺麗なのですが、3度の響きがとても汚い響きでした。
ところが当時は3度のハーモニーよりも5度のハーモニーの方が重要視されていたので、しばらくはこれが続いた模様です。
しかし、音楽が発展していき、ハーモニーがより複雑になっていく過程で、3度と6度の音の重要性が増しました。
その結果3度と6度をもっと綺麗にしたいと考え、出来たのが純正律です。
これはピタゴラス音律から3度と6度を小さな整数倍比(81/64→5/4、27/16→5/3)にして、7度も少し手を加え、あらたなドレミファソラシドが作られました。
コーラスの話に戻りますが、コーラスで自然に耳でお互いの声を聞きながらハモった場合、この純正律の音程になることが多いです。
純正律は5度は3/2、4度は4/3、そして3度は5/4で6度が 5/3とそれぞれが綺麗な響きを持っています。
これは声楽やフレットレスな楽器や、自分で音程を作る楽器の場合は良いのですが、鍵盤楽器や、調律が一律な楽器の場合は不都合が出てきます。
それは、純正律だと、転調が苦手だということです。
例えば、純正律の場合、ドとソの音やミとシの音、ファとドの音は5度で綺麗にハモりますが、レとラの音は若干濁ってしまいます。
これは先のドから考えた6度の音程を綺麗にするために、ラの音を若干低くしたため、レとラの幅が綺麗な5度の幅よりちょっと狭くなってしまっているのです。
よって、純正律には得意な調、得意なハーモニーが決まっていて、逆に演奏に向かない調やハーモニーもあるのです。
これを一手に解決したのが12平均律でした。
実はこの12平均律、当初はものすごく音楽家からは受け入れられて無くて、バロックでは中全音律、古典からロマン派後期まではヴェルクマイスター、キルンベルガーIIIといった音律が好んで使われていました。
また、音楽家によっては、自身で作曲した曲に特化した音律なんてのも秘伝で使っていたとも言われます。
12平均律を広めたのはバッハだと勘違いがあるのですが、平均律クラヴィーアって誤訳されたのが原因だそうですね。
本来は英訳でWell tempelament(ほどよく加減された音律)という訳で、バッハ自身はこの曲をベルクマイスターの音律で調律して作っていたと言われています。
また、キルンベルガーはバッハの弟子で、恐らくは師匠が好んで使っていた音律を更に研究して、まずは純正律寄りのキルンベルガーIから入り、キルンベルガーIを改良したキルンベルガーII、そして、ベルクマイスターよりのキルンベルガーIIIという音律を作っていったようです。
なので、クラシックが好きな方は、昔の曲を昔の音律で演奏された物を聴いてみると、また違った趣や新たな発見があると思います。
しかし、1850年頃にジョンブロードウッド社がピアノの大量生産をしていくのを皮切りに、そこで採用されたのが12平均律であった為、12平均律で調律されたピアノが大量に年間約2500台のペースで出回りました。
それまでは、個人工房でも年間20台が限界だったという時でしたので、そのインパクトたるや凄まじかったんじゃないかと想像出来ます。
こうして平均律に駆逐されたベルクマイスターやキルンベルガーIIIは歴史の彼方へと消えていってしまう訳です。
そして、ピアノについてはこの平均律が採用されているので、コーラスが歌う純正律のハーモニーとは若干音程が違う為、音がぶつかったような、或いは、ちょっと外れているかのような感じに聴こえてしまうのです。
ですが、実際にその違いってどれくらいかというと、オクターブを1200で分けたうちのたった14(セント)しか違わないんですよ。
ソやファに至ってはたったの2(セント)です。
なので、まあ、違いが分かる人は耳がいい人ってことで、ちょっとなんか外れているのかもって思うのは、ピアノと歌だと平均律と純正律ぐらい、音程が若干変わって聴こえる場合がるから、そのせいだと思って、気の所為くらいに思っていればと思います。
今日はそんなところです。
バッハ, J. S.: 平均律クラヴィーア曲集 第1巻 BWV 846-869/ヘンレ社/原典版(2007年改訂版/A. シフによる運指付き)
- 出版社/メーカー: ヘンレ社
- 発売日: 2009/08/01
- メディア: 楽譜
- この商品を含むブログを見る